

「利用される方のなかには、たとえば身体が不自由な方とか、言葉が不自由な方、あるいは痴呆症の方など、さまざまな人がいます。
そういう方たちをただ黙って送迎するだけではなく、とにかく安心して乗っていただいて、その送迎時間中はできるだけ楽しんでもらいたい、と思いながら仕事をしています。
愚痴の一つでもいってもらえるような、そんな信頼関係を早く築いて、私の送迎を楽しみにしてもらえるようになれたらと思います。
そういう意味で、やればやるほど、この仕事は奥の深い仕事だなあと感じています」その熱っぽい言葉からも、Fさんがいまの仕事に意欲的に取り組んでいることが分かります。
Fさんの再就職先には、大手電機メーカーを早期退職した人や大手銀行の支店長だった人など、Fさんと同じような境遇から介護タクシーで第二の人生をスタートした人が何人もいます。
そのことも、Fさんの「この仕事で頑張っていこう」という思いを強くしているようです。
「いまの仕事には定年がないようなもので、自分自身で『これでリタイアだ』と思うまで続けられます。
自分の引き際を自分で決められるというのは素晴らしいことですよね。
この仕事を選んでよかったと思っていますし、支えてくれた家族や担当コンサルタントの方には大変感謝しています。
それから以前いた企業にもね。
本当に長い間お世話になったと思いますし、辞めていく社員に対して、こういう再就職支援のパッケージを用意してくれなかったとしたら、私の場合、自分一人で新しい道を切り拓くことは難しかっただろうと思います」そう語るFさんの脳裏には、失職中で世間体を気にしていたころの自分の姿が去来していたことでしょう。
いま、第二の人生を懸命になって模索中の人には、こんなアドバイスを送ります。
「いままでどんなに立派な仕事をしてきた人でも、新たな分野で再就職すれば、一新人にすぎないということをわきまえておかれるべきだと思います。
それは、待遇給与についても、人間関係についてもです。
それから、こういう厳しい時期を乗り切るには、家族の理解が絶対に必要だと思います。
私の場合はそれで救われたと思います」介護タクシードライバー一年生のFさんは、「早めに転進できてよかった」と口ではいうものの、実は自分の部屋には品質管理に関する本がまだ捨てずに取ってあるといいます。
また、求人広告で「品質管理者求む」というような文言があると、いまでもつい目がいってしまうそうです。
三十年以上にわたって積みあげてきた自分の過去は、忘れたつもりでもそう簡単には清算できないということでしょう。
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